生薬名"麦門冬(根)"
元々、山地の木陰や田畑のほとりに生える植物ですが、昔から人家にも植えられ、根がよく張って茂るので庭園の土止めとして使用されます。東南アジアが原産ですが、現在では広く世界で栽培されています。実は円く成熟して濃青色となりハズミ玉とかピンピン玉と言われますが、これは果実ではなく種子です。株元から長いヒゲ根を多数出し、所々にふくらんだ卵状の塊根をつけますが、この根の玉状のものが薬用に使用する麦門冬(バクモンドウ)です。塊根ができるものにジャノヒゲ属とよく似たヤブランの仲間がありますが、ジャノヒゲの葉は幅が2~3mmと狭く、ヤブランは1cm位あって広いので区別ができます。
栽培ものは5~6月頃に掘り取りますが、一般には秋から春先にかけて地上部分がまだ活動を始めていない頃の採取が最適です。塊根部だけをとり、残りは再び植えておけばまた翌年には採取ができるので、庭での観賞も兼ねることのできる、優れた薬草といえます。塊根部分はよく水洗いして乾燥させます。一度天日で半乾燥してから半日ほど水につけて柔らかくなったところで中心部の芯を抜き、再び天日で十分乾燥させます。これは丸麦(まるばく)という良品です。芯を抜かないでそのまま乾燥した長麦(ちょうばく)も効き目に変わりはないようです。
麦門冬(ばくもんどう)は古くから漢方の要薬とされていて、滋養強壮、咳止め、痰きり、解熱、利尿、催乳剤として風邪、喘息、百日咳、声枯れ、糖尿病、心臓病、リューマチなどに用いられてきました。刻んだもの1日量6~12gに水0・5リットルを加えて半量になるまで煎じ、3回に分けて食間に服用します。しかし麦門冬の一番の効用は、なんと言っても麦門冬湯という漢方処方の咳止めとしての働きだと思われます。特にこれからの時期は空気が乾燥し易く、咳の中でも難治性の乾いた空咳の患者さんが非常に増えるのですが、気管支を潤しながら咳を治すという特徴をもつ麦門冬湯はこれらの咳には最適で、普通の咳止めが効かない方にも有効ですので、咳が治りにくい方は一度ご相談頂くと良いでしょう。