卵巣嚢腫
卵巣嚢腫とは
卵巣嚢腫は卵巣にできる腫瘍のひとつで、卵巣にできる腫瘍は、「嚢胞(のうほう)性腫瘍」と「充実性腫瘍」の2つのタイプに分けられます。
このうち、「嚢胞性腫瘍」のことを卵巣嚢腫と呼びます。
卵巣嚢腫は、卵巣にできる腫瘍の9割を占め、そのほとんどが良性のものです。
卵巣嚢腫は、さらに3つに分類されます。
1)漿液性嚢胞腺腫(しょうえきせいのうほうせんしゅ)
嚢胞内部にサラサラの黄色い液体がたまる腫瘍で、卵巣嚢腫の25%を占めます。
2)粘液性嚢胞腺腫(ねんえきせいのうほうせんしゅ)
嚢胞内部にネバネバした粘液がたまる腫瘍で、卵巣嚢腫の20%を占めます。この腫瘍の特徴は、しばしば巨大化し、お腹の中で嚢胞が破れ、内部の粘液がおなか全体に広がることです。この病態を腹膜偽粘液腫(ふくまくぎねんえきしゅ)と呼びます。腫瘍の一つひとつの細胞は良性ですが、破れることで腹膜炎を起こす場合があります。
3)成熟嚢胞性奇形腫(せいじゅくのうほうせいきけいしゅ)
嚢胞内部に皮脂、毛髪、歯、軟骨などを含んだ腫瘍で、大きさは通常、直径10cm以下で、卵巣の両側に発生することもあります。良性の卵巣嚢腫のなかで最も頻度が高く、その半数以上を占めます。
大部分は20~30代に発生します。そのため、妊娠中に発見されることもよくあり、その場合は妊娠初期に手術を行います。

もう一方、「充実性腫瘍」は、コブのように硬い腫瘍です。
「充実性腫瘍」の80~90%は悪性の卵巣がんあるいは良性と悪性の境界型と呼ばれるものです。

「沈黙の臓器」と呼ばれている卵巣は、腫瘍ができても、小さいうちはほとんど自覚症状がありません。
本来、うずらの卵ほどの大きさである卵巣が、最大で人間の頭大にまでなることがありますが、おおよそ、握りこぶし大ほど(6,7センチ)になると、下腹部がふくらみ、皮膚の上からしこりを感じたりするようになります。
また、腫瘍が大きくなるにつれて、周囲を圧迫し、その結果、頻尿、腰痛、下腹部痛、月経痛などの症状が現れます。
腹水(おなかに水がたまる)や胸水(肺に水がたまる)などが合併症として出てくる場合もあります。

卵巣嚢腫は9割が良性ですが、注意すべき病変もあります。
その一つが、茎捻転(けいねんてん)です。
茎捻転とは、卵巣が根元からクルッとねじれてしまうもので、突然、下腹部に激痛が走ります。ショックで意識不明になることもあれば、吐き気や嘔吐、発熱が生じることもあります。茎捻転は、激しい運動をしたり、体位を大きく変えたりした拍子に、卵巣が根元でねじれ、卵巣への血流がストップしてしまうことで起きます。いったん茎捻転が起こると、卵巣が壊死(えし)してしまうので緊急手術が必要になります。
もう1つの病変が破裂です。
なにかの拍子に嚢腫が破れてしまい、内容物が腹腔(ふくくう)内に流れ出し、突然の激しい下腹部痛に襲われます。

検査は、問診、内診、触診、膣からの超音波診断、CTスキャン、MRIなどがあります。
これらでも判断が難しい場合は、採血し、腫瘍マーカーを調べます。
そして、100%正確な診断のためには、腫瘍そのものを摘出し、組織検査を行います。
治療(西洋医学)
手術療法が基本です。
腫瘍を摘出します。この場合、悪性の疑いもなく、自覚症状もない場合は、嚢腫が握りこぶし大より大きくなってから、手術が検討されます。
そうでなければ、経過観察です。
漢方では?
漢方では、体内の気・血・津液のバランス、五臓六腑のバランス、陰・陽(寒・熱)のバランスを整えることにより、症状や病気を改善していきます。婦人科疾患の場合、血のアンバランスが起こりやすく、血虚(血の不足)や瘀血(血の滞り)状態になりやすいと考えます。
① 瘀血の場合
瘀血(おけつ)というのは血の流れが滞った状態です。女性は男性とちがって、1ヶ月に1度生理がくるという月経周期をもっているので、どうしても瘀血(おけつ)という状態になりやすくなります。また、手術や事故なども瘀血の原因になります。その他にも「七情の乱れ」(喜、怒、恐、悲、憂、驚、思)により、体内の臓器に影響をおよぼし、瘀血(おけつ)の原因となります。
これを改善する生薬として、桃仁、牡丹皮などがあり、これらの配合された処方を使っていきます。

代表処方:桂枝茯苓丸、桃核承気湯など
② 血虚の場合
血虚とは、血のもつ栄養・滋潤作用の不足のことで、原因として、脾胃の運化作用の低下にともなう血の生成の不足、出血や血液破壊による血の量の不足、循環不全による血の供給不足が考えられます。
主な症状としては、冷え、顔色が悪い・皮膚に艶が無い・唇のあれ・爪が脆い・目がかすむ・目が乾く・目がくらむなどです。
これを改善する生薬として、当帰、地黄などがあり、これらの配合された処方を使っていきます。

代表処方:温経湯、加味逍遥散など
③ 水滞の場合
また、卵巣嚢腫の場合、嚢胞に液体がたまる場合があるため、水毒を考える必要もでてきます。漢方には体内の水(津液)の偏在を改善する生薬があり、それらが配合された処方を使うことで体内の余分な水を小便、汗などで取り除いていきます。

代表処方:当帰芍薬散、五苓散など
症例
  
症例
49歳 女性 150cm 46kg
12年前に子宮筋腫の手術歴あり。それ以降に腹部の張りと違和感があり、病院で診察を受けた結果、卵巣嚢腫と診断。これまで2回卵巣嚢腫の手術をうけたが、また同じような症状がでてきたために来店されました。お仕事柄、立っている時間が長く、お腹に力をいれるとお腹が張ったような感じになり違和感があるとのことでした。また、卵巣に水がたまっていると以前言われたとのことでした。
食欲は正常で、便通、小便も問題ないとのことでした。冷えは多少あるがあまり気にならないとのことでした。
経過
子宮筋腫、卵巣嚢腫の手術歴があり、また年齢的にも更年期のころで、瘀血があるのではないかと考え、桃仁、牡丹皮のはいった漢方処方を主に服用してもらいました。
同時に、お腹の張りや痛みがあったので腹満や腹痛をとる漢方薬と体内の余分な水をさばく漢方薬を併用してもらいました。
1か月服用してもらう頃よりだんだんお腹の張りや違和感がなくなり、立ち仕事をしても苦にならないということで、しばらく同じ処方で続けていただきました。
1年ほど服用してもらい、漢方薬を飲み始めて卵巣のことはあまり気にならなくなったと喜んでいただきました。病院の検査もおすすめして、調べてもらったところ、今は問題ないとのことでした。その後は、1日の服用回数を減らして服用してもらっています。もう10年近くなりますが、お腹の症状がでることはないようです。
養生
現代では、瘀血ができやすい条件がそろっています。ストレスの多い社会ですが、できるだけ心おだやかに、ゆったりと生活していくことがとても大切だと思います。そして、自然の恵みに感謝し、旬の食物をよくかんでいただくことが瘀血を改善する基本だと思います。