肋間神経痛
肋間神経痛とは
 肋間神経の肋間とは肋骨と肋骨の間という意味で、肋間神経は肋骨に沿って走っている神経です。
その神経は胸部の筋肉を動かす運動神経と、皮膚感覚を感じる知覚神経に分類されます。背部だけでなく、腹筋も肋間神経が支配しており、肋間筋は呼吸にも横隔膜と共に呼吸筋として働きます。この横隔膜の一部も肋間神経が支配しています。
 肋間神経痛とは、この肋間神経が何かの原因で圧迫や刺激を受けたり、ウイルスなどに感染することで、痛む症状のことで、中年以降に多く見られる症状でです。
(肋間神経痛とは、あくまで症状のことであり、病名ではありません。)

 痛みはふつう片側に起こり、深呼吸や咳などで痛みが誘発されることがあります。
原因が分かるものと、分からないものがあり、前者の1つには脊椎の病気があります。
骨折や骨の歪み、外的な圧力によって骨や筋肉が圧迫されて、肋骨間に走る末梢神経(肋間神経)を刺激することで痛みを発します。
これは不自然な姿勢や疲労から突然起こることも多く、たいていは一時的なものです。
交通事故などの後遺症で起こることもあります。
また、中高年の女性の場合、骨粗鬆症があると、咳やちょっとした外からの力で骨折が生じて、肋間神経痛を起こすことがあります。この場合は姿勢の変化で痛みが増強し、呼吸や物を持ち上げるときに痛いのが特徴です。亀裂がわずかの場合は、レントゲンでもわかりづらいことがあります。
 これらの治療としては、まず消炎鎮痛薬や湿布を用いて経過を観察します。
外傷による場合は、胸郭を固定するため、コルセットなどで肋骨を固定します。
強い肋間神経痛が長引くようであれば、神経ブロックを行ないます。神経の炎症があると思われる場合は、ステロイドと局所麻酔薬を混ぜて使用することもあります。
骨粗鬆症がある場合は骨粗鬆症の治療も行ないます。

 また帯状疱疹を胸脇部に患ったことにより、肋間神経痛を起こすこともあります。
帯状疱疹は、子供の時にかかった水ぼうそうのウイルスが神経の中に潜んでいて、疲れやストレスなどをきっかけに再び表に現れてくることにより起こります。帯状疱疹にかかるとチクチクやズキズキとした痛みと小さな水疱が現れます。水疱は時間と共に治りますが、皮膚の症状が消えた後にも痛みが残る場合があり、これを帯状疱疹後神経痛といいます。
帯状疱疹後神経痛の痛みは、ウイルスが神経を傷つけるために起こるもので、衣服がすれるだけで痛みを起こすこともあります。しかし、夜間はよく眠れたり、何かに集中していると痛みを感じなかったりするという方も多いようです。
帯状疱疹は、ウイルスに神経を傷つけられる前に、発症後早めの治療が大切になります。
いつもと違う皮膚の痛みや発疹に気が付いたら、早めに病院を受診することをおすすめします。
帯状疱疹後神経痛の治療には、薬物療法と補助的に神経ブロックが用いられています。また、鎮痛補助薬として三環系抗うつ薬、抗てんかん薬が用いられることもあります。

 中には心臓や肺など胸部の内臓の病気や腫瘍などが原因のこともあるので注意が必要です。

 胸椎部分の脊髄中枢神経にも、末梢神経(肋間神経)にも異常がなく、内臓器官にも異常がない場合には、心因性(ストレス)による肋間神経痛の可能性があります。過度のストレスを抱えている方は気分転換など気持ちのリフレッシュを行うことも大切です。
漢方では?
 肋間神経痛にはいくつかの原因が考えられ、まず1つが胸の気滞で、胸の陽気(生体が持つ生命エネルギーのようなもの)が虚し、冷えて気の循環が悪くなったときに起こります。
次ぎに、胸脇部には肝経と胆経の経絡が通っています。そのため肋間の痛みには肝胆の異常が関係していることが多くあります。
また、脾胃の弱りと冷えや、瘀血が関係するものがあります。

・気滞
 外感病や内傷で肝の疏泄作用が失調し、肝気に鬱結が生じると、経脈(漢方医学で考えられている気血をめぐらせる経路)を阻滞し、胸満や疼痛を生じます。
気滞による痛みは遊走性のものが多く、鈍痛や圧迫感などの不快感を伴うことが多くなります。

・瘀血
 事故や外からの強い刺激、骨折、打撲などを受けると瘀血が生じやすくなります。また、気滞が長く続くと血の巡りが悪くなり瘀血を生じます。
瘀血による痛みは固定制のものが多く、刺すような胸痛を伴うことが多くなります。

・冷え、痰飲
 脾胃の陽気が不足した状態で寒さや湿気の邪に当たったり、痰飲(胃の病変などで生じる滲湿液)などが生じると、胸脇間に冷えや痛みを生じます。
上記したように、漢方医学では肋間神経痛といっても様々な原因が考えられます。患者様の体質や、痛みを起こした経緯をもとに使う漢方薬を決めていきます。
症例
症例
66歳 女性 160cm 62kg
以前、手指のヘパーデン結節、腰痛、ひざ痛で漢方薬を飲んでいただいていた患者様から、 冬に帯状疱疹ができ、病院で抗ウイルス剤の内服と外用剤を使用して、皮膚症状は改善したが、痛みが続くと相談をいただきました。
症状を詳しく伺ったところ、背中から脇にかけて、ズキズキと痛みが続く。
病院で鎮痛剤、抗うつ薬、抗てんかん薬をもらっているが、痛みがとれない。
また、胃酸過多と、咽のつかえた感じがあり、病院で治療中とのことでした。

・投薬と養生
 帯状疱疹後に起こった肋間神経痛であること、胃酸過多や咽閉塞感があることなどから、肝気の鬱結と湿熱が胸と心下に結聚して胸痛を生じたものと考えて、少陽胆経の邪熱を清し肝胆の気滞を疏す柴胡・黄芩、胃の痰飲を去り逆気を下ろす半夏・生姜、脾を補い気を増す人参・甘草・大棗、心下の熱結を泄瀉する黄連、痰濁を下降させる働きのある栝楼実などの生薬の入った漢方薬を飲んでいただくことになりました。
服用後2ヶ月後、何かに集中しているときは痛みを忘れているときができはじめました。しかし基本的には、痛みは続いています。
 数ヶ月後に医療用新薬の帯状疱疹後神経痛に効果がある末梢性神経障害性疼痛薬が使用開始になると主治医から話しがあり、その薬の効果に期待して、それまで同処方で続けていただくことになりました。
その後、末梢性神経障害性疼痛薬を服用されましたが、この患者様には効果がなく、病院からは抗うつ薬のみを処方されるようになりました。
 期待していた新薬で効果が得られず、落ち込んでおられたので、漢方薬は今までの方剤に脾胃を補い気を増す方剤を足して服用していただくことにしました。

 また生活養生として、寒さや冷えが痛みを増強させることがよくあるため、身体を温かく保ち、入浴もゆっくり湯船につかって温まるようにしていただく。
ストレスや疲労が痛みを増す原因となることもあるので、睡眠を十分にとって、過度にストレスをためないようにゆっくり過ごすよう心がけていただく。
家にひとりで閉じこもって痛みのことを考えていると、痛みが気になり、落ち込んだり、不安になり、その結果痛みが増す悪循環が起こってしまうことがあります。何かに集中しているときに痛みを忘れることが多いことから、好きな趣味などに時間を使ったり、人と会話したり、身体を動かしたりと、気のめぐりがよくなる生活を心がけていただくことにしました。

 その後、症状に波はありますが、痛みを忘れている時間が増えてきており、今でも服用を続けていただいています。