高血圧症
高血圧症とは
動脈の血圧が正常範囲を超えて高くなった状態を高血圧といい、この状態が持続しているものを高血圧症とよびます。血圧とは血流が血管壁に与える圧力のことで、心臓が収縮して血液を送り出すときに最大となり、これを最大血圧あるいは収縮期血圧といいます。また心臓と大動脈の間にある大動脈弁が閉じて心臓から送り出される血液が止まったときに血圧は最小となり、これを最小血圧あるいは拡張期血圧といいます。
世界保健機構(WHO)で定めた基準がもっともよく用いられています。これによると、血圧降下薬(降圧剤)を投与されていない状態で、収縮期血圧140ミリメートル水銀柱以上および拡張期血圧90ミリメートル水銀柱以上のいずれか一方、または両者とも当てはまる場合を高血圧と定めています。しかし、血圧は人種、性別、年齢によっても異なり、一般に女性より男性のほうが高く、年齢とともに高くなる傾向があり、さらに同一個人においても変動がみられ、1日のうちでは睡眠中がもっとも低く、季節では夏よりも冬のほうが高くなる傾向があります。そのほかにも血圧に影響を与える要因が多くあり、精神的ストレスをはじめ、寒さ、運動などがあげられます。
血圧はたいへん変わりやすいものであり、著しい高血圧の場合を除き、普通は何度か血圧測定を行い、つねに血高血圧症の原因となる病気がはっきりとわかるものを二次性高血圧症といいます。これに対して原因の不明なものを本態性高血圧症といい、大部分のものがこれに属します。二次性高血圧症は約5%にみられますが、とくに若年者で急に高血圧症になった場合は、原因となる病気がないかを注意深く調べる必要があります。
血圧はたいへん変わりやすいものであり、著しい高血圧の場合を除き、普通は何度か血圧測定を行い、つねに血圧の高い場合に初めて高血圧症と診断されます。
高血圧症をおこす病気は、次の三つに大別されます。
(1)内分泌異常によるもの・・・
代表的なものとして副腎(ふくじん)皮質ホルモンの分泌過剰により肥満をおこしてくるクッシング症候群、副腎皮質よりのアルドステロンの過剰分泌をきたす原発性アルドステロン症、副腎腫瘍(しゅよう)より交感神経を刺激するカテコールアミンが過剰に分泌される褐色細胞腫、バセドウ病の名で知られる甲状腺(せん)ホルモンの分泌過剰をきたす甲状腺機能亢進(こうしん)症などがあげられます。
(2)腎臓病によるもの・・・
慢性腎炎のほか、腎動脈が狭窄(きょうさく)する腎血管性高血圧症などがあります。
(3)その他・・・
動脈が炎症をおこして狭窄し、脈なし病ともよばれる大動脈炎症候群も高血圧症をおこすことがあります。

本態性高血圧症の原因はいまだ明らかではありませんが、遺伝、食塩摂取量、血圧を調節する種々のホルモンなどが関与していることがわかってきており、これらの因子が絡み合って本態性高血圧症の原因となっていると考えられています。
合併症
高血圧症は全身の動脈硬化を促進し、種々の臓器に障害を与えます。したがって種々の疾患のリスクファクター(危険因子)として重要視されています。なかでも重要なものは、脳、心臓、腎臓の合併症です。
脳では動脈硬化のために脳の血管が詰まりやすくなったり、もろくなって、脳卒中がおこりやすくなります。心臓では心筋に栄養を補給する冠動脈に動脈硬化がおこり、心筋梗塞(こうそく)や狭心症を引き起こす場合があります。また、血液を強い力で送り出さなければならないため、心臓に過剰な負担をかけ、全身に十分な血液を送れなくなる心不全の状態が生じやすくなります。腎臓では腎機能が徐々に低下し、血液中の老廃物を尿中に十分に排泄(はいせつ)できない腎不全の状態になることがあります。すなわち高血圧症では、血圧が高いことそのものよりも、むしろこのような重要臓器に障害をきたすことが問題となります。
治療(西洋医学)
食事療法および一般療法と降圧剤療法に大別されます。食事療法および一般療法だけでは十分な降圧の得られないことも多いですが、降圧剤療法と併用すると降圧剤の効果を増強させ、そのために降圧剤の投与量や副作用を減少させることができます。食事療法では食塩の摂取量がもっとも重要です。
降圧剤療法は、食事療法や一般療法を行い血圧を何度か測定し降圧のみられないような方に開始するのが一般的ですが、収縮期血圧180ミリメートル水銀柱以上、拡張期血圧110ミリメートル水銀柱以上のような高リスクの高血圧ではただちに降圧剤を投与することもあるようです。
降圧剤の種類としては、降圧利尿剤、交感神経抑制剤、血管拡張剤や、体内でもっとも強い血管収縮物質の一つであるアンジオテンシンⅡの産生を抑制する薬(ACE阻害剤)、このアンジオテンシンⅡの結合を阻止して血管の収縮作用が現れないようにする薬(A-Ⅱ受容体拮抗(きっこう)薬)などがあげられます。
漢方では?
漢方医学の歴史の中には高血圧症という概念はでてきません。しかし、現代の漢方では、血圧が高くなるのは、五臓の機能に乱れがあって全身の調和が破られる結果、その表れとして高血圧が出現してくると考えます。従って漢方には、西洋医学のような降圧剤という範疇に属する薬はなく、治療に際しては病人の病態と、それが現している症状(証)を把握して、個々の病人の病態に最も適した処方を選択していきます。身体的歪みを正し、その結果として望ましい血圧が得られるように考えていきます。

処方を決める場合、大きく実証か虚証かまず考えます。

実証の場合は、血圧を上昇させる邪が過剰に作用しているもので、治療には、病邪を攻撃排泄する処方(主に瀉剤)を用いることが多いです。
(代表処方:大柴胡湯・柴胡竜骨牡蠣湯・黄連解毒湯・三黄瀉心湯・大承気湯・防風通聖散・桃核承気湯など)
① ストレスによるもの・・・
漢方では人間の感情を支配しコントロールするのは肝の役目 と考えています。ストレスや精神的緊張がたまると、肝に心理的エネルギー(肝気)が鬱積し、これが新陳代謝の調和を乱して血圧を上昇させる原因になることがあります。
また、鬱積した肝気が熱になり、心の熱となる場合があります。心は血脈を主り、心が熱せられると血熱となり、熱が全身に充満しやすくなります。
② 食毒によるもの・・・
飲食の不摂生と運動不足は"脾胃"を損傷します。食毒と水毒が体内に蓄積して肥満と高血圧を惹起するタイプです。臓腑に滞積した毒を体外に排泄させる必要があります。
③ 瘀血(おけつ)によるもの・・・
瘀血は全身の抹消血管抵抗の増加と、しばしば自律神経失調状態を惹起し、血圧上昇の一因となることがあります。特に更年期の婦人にみられる高血圧症は、瘀血を治療することで改善する例が多いです。また高血圧や脳卒中の要因の一つである血管抵抗増大、血液粘度の上昇、凝固抗進などは瘀血と関係があると考えられています。

虚証の場合は、寒熱や気・血・水を正常に保持する正気が不足している為、正常な生理機能が乱されてその反動として血圧上昇が起こるもので、不足している生気を補う処方を考えます。
(代表処方:釣藤散・七物降下湯・加味逍遥散・六味丸など)
① 血虚(肝虚)によるもの・・・
血虚とは血の持つ栄養滋潤作用が不足して、臓腑の働きが損なわれることで、血圧上昇に関係する場合があります。肝血が不足すると、肝気は肝血の抑制を受けなくなって、肝気が浮揚し、めまい、耳鳴り、頭痛、血圧上昇などの症状がでやすくなります。
② 腎虚によるもの・・・
腎の津液が不足する結果、腎陰虚になった場合や、腎の津液が不足した結果、腎が心陰を養わなくなり、心火が独り旺盛になる場合です。

このように、それぞれの体質やタイプを考えながら、漢方薬を選んでいきます。ただ、血圧(数値)を下げる働きは、西洋医学の降圧剤の方が圧倒的に有効です。降圧剤で数値を下げながら、血圧が上昇する背景にある体の歪みを漢方薬で改善していくという方法がいい場合も多いです。生活習慣、ストレス、食事などにも気をつけていくことも大事です。