冷え症
冷え症とは
 普通の人は別に寒いと感じない程度の温度でも、常に手足や腰背などが自覚的にとても冷たく不快に感じられる場合を一般に「冷え症」と呼んでいます。冷え性は女性の半数以上にみられ、最近では男性にも冷え性が増えてきています。
 冷え性の要因となるのは、貧血、低血圧、自律神経失調、性ホルモン異常、甲状腺機能低下症などがあります。しかし、ほとんどの場合原因を明らかにすることはできません。
 冷えは一過性にも起こり得ますし、冷えを蓄積して、手足の冷え、食欲不振、肩こりや不眠、腹痛、下痢、便秘、精神的不安定、生理不順など実に様々な症状が起こります。

西洋医学の治療
 冷え症は血管運動神経の失調による局所の血流量の減少と、その知覚異常(過敏)によって起こると考えられています。ビタミンC、ビタミンEなどがよく処方されます。ビタミンCは鉄の吸収を促進して毛細血管の機能を高めます。ビタミンEは血行を良くして、ホルモンの分泌を調節する働きがあります。その他ホルモン補充療法や自律神経調整薬などが処方されることがあります。
漢方では?
 漢方では冷え症は外に寒邪や湿邪などの外因があり、これに対して非常に敏感に反応しやすい体質すなわち内因があり、内外両因が相呼応して異常な冷えを自覚させていると考えます。内因としては身体を温めるべき陽気が不足している陽虚、水飲代謝が失調して内に痰飲を生じている水滞、及び血流が停滞して局所的に異常な冷感や熱感を覚える瘀血などが考えられます。
以下の体質を考えながら処方を決定します。

陽虚(ようきょ)
 虚弱体質、老人あるいは大病後、術後、産後などで気血の不足した人にみられます。外から風寒の邪が虚に乗じて体内に侵入し、陽気を損傷して内寒に陥った方が寒邪傷陽で、もともと体内の陽気不足が著しく、身体を十分に温められない方が陽虚内寒です。
 陽虚の人は手足の冷えが著しい他、元気不足で倦怠無力感が強く、色の薄い尿や下痢軟便などが出やすいのが特徴です。

陽虚に用いる漢方薬には麻黄附子細辛湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、人参湯などがあります。
 麻黄附子細辛湯はもともと体質の弱い方が寒い季節や冷房のあたりすぎで、寒がり、咳、痰、鼻水をともなう場合に使います。
 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は血が不足している方が寒冷により身体の深部が冷えて、手足の冷え、しもやけ、頭痛、疲れやすい、嘔吐、腹痛、腹にガスがたまる、のぼせなどがある場合に使います。
 人参湯は脾の陽気不足により冷えの症状を呈するときの代表的な処方です。胃がふくれて食欲がなく、みぞおちの痞え、下痢、胃痛、吐き気などをともなう場合に使います。

水滞(すいたい)
 水の代謝が悪く、水分が身体に停滞し冷えて陽気の働きを妨げているので冷えを感じます。水滞の人は冷えと同時に、浮腫、頭痛や神経痛、下痢、めまい、動悸、咳、痰などの水毒症状が現れます。

水滞に用いる漢方薬には真武湯、苓姜朮甘湯、当帰芍薬散などがあります。
 真武湯は冷えにより全身の水分代謝が低下して、めまい、動悸、腹痛、下痢する場合に使います。
 苓姜朮甘湯は下半身に水が滞ることにより、足腰が冷えて痛む場合に使います。
 当帰芍薬散は冷えとともに浮腫の傾向があって顔色が悪く、腹痛、めまいや立ちくらみ、月経異常などの症状がある場合に使います。

瘀血(おけつ)
 体内で血液が停滞して流れにくくなった状態です。瘀血は気の異常、寒熱、外傷や内出血、および女性では月経、妊娠・出産など女性特有の生理の結果として生じます。
 瘀血があると、血行の停滞やそれに伴う放熱の不均等や自律神経失調などにより、自覚的な寒熱が錯雑混在して、いわゆる冷えのぼせの症状を伴うことが多いです。
 瘀血証ではサメ肌、静脈怒張、毛細血管拡張、異常出血、頭痛、肩こり、局所の鋭い痛み、下腹部の緊張感や著明な圧痛などがよく見られます。

瘀血に用いる漢方薬には桂枝茯苓丸、桃核承気湯などがあります。
 桂枝茯苓丸は瘀血の治療に多用される漢方薬で、のぼせ、頭痛、めまいなどの上衝症状があり、肩こり、月経異常などがある場合に使います。
 桃核承気湯は下腹部の瘀血がさらに強く、冷えのぼせ、便秘、足の冷えがある場合に使います。

養生
身土不仁(しんどふじ)という言葉があります。これは身体と土(環境)は一つであって、二つのものではないという意味です。熱帯などの暑い地域では体を冷やす働きの果物が採れてアラスカのイヌイットは、アザラシなどの脂肪や肉をたくさん食べて寒さに耐えています。文明が発達して夏に採れる野菜や果物が冬に食べられるようになったり、夏になるとクーラーで冷え性が逆に悪化する人が多いのです。季節にあった食事や冷暖房の使い過ぎには気をつけましょう。
症例
症例1

36歳 女性 痩せ気味
以前より冷えで困っているということで相談に来られました。お話をうかがっていると低血圧もあり、朝も起きにくくなんとなく元気も無いということでした。食も細いということなので、アミノ酸が主成分の体作りの薬や、体のエネルギーの血を補う漢方薬、全身の血めぐりを良くする体の補強薬などを差し上げたところ、段々と顔色も良くなり、元気も出てきたという事なので、しばらく続けてもらうことにしました。冷え性のほうも以前に比べると大分違うということで現在でも喜んで服用いただいています。

症例2
40歳 女性 163㎝/60kg
 以前から冷え症で、特に腰から下が冷えやすく、生理中は大便が下痢気味になるそうで、さらに左腕や左足など、主に左側が痛んだり重たい感じがするそうです。夏場に冷たいものを摂りすぎたせいか、今年は特に冷えやすい上に疲れやすく、頭もふらふらするとのことでした。浮腫もあり、なんとなく身体全体が腫れぼったいとのことで来店されました。
 患者さんを見た感じは一見がっちりした感じがするものの、顔色は青白くいかにもきつそうな感じでした。その上なんとなく精気がなく腫れぼったい感じもしていました。
生理中に大便がゆるむことや、主に左側に症状が出現していることなどから、血の不足によって生ずる血虚と判断しました。そこで血虚を補いながら体を温めると共に、水分代謝も改善する当帰芍薬散を煎じ薬で服用いただくことにしました。
 服用から15日後に来られた時にはかなり体が温まり、むくみも改善されてきたそうです。
しかし、冷えはまだ完全には改善されていないので、体質改善のためしばらくは服用したいとのことで現在も継続中です。