糖尿病
 
 日本では40歳以上の約10人に一人、65歳以上では約10人に二人が「糖尿病」にかかっているといわれています。糖尿病は年々増加しており、ほかの病気に比べても際立った伸びを示しています。
現在、糖尿病の患者さんの数は約890万人、糖尿病予備軍の人を含めるとおよそ2200万人にも上ると推定されています。

糖尿病とは
 インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を、細胞に取り入れる働きをしています。食事から取り込まれたブドウ糖が血液中に増えると、インスリンが分泌されて、血糖値(血液中のブドウ糖の量)が下がります。
 ところが、インスリンの分泌が少なかったり、インスリンの効き目が低下すると、血糖値がなかなか下がりません。細胞内にブドウ糖が取り込まれない状態、すなわち常に血糖値が高い状態が続くと、体にさまざまな障害を起こします。これが糖尿病です。

 糖尿病は、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。「のどが渇く、尿の量や回数が多い、体重が減る」といった高血糖に起因する症状が現れてきたときには、すでに、かなり進行した状態です。また、糖尿病にかかっていても、活動的で食欲もある人が多く、こうしたことが、糖尿病の発見を遅らせ、進行させてしまう一因となっています。さらに怖いのは、進行した結果起こる合併症です。

糖尿病の原因
・食べ過ぎ、肥満
・運動不足
・身体的、肉体的ストレスによるインスリン作用の低下
・老化による膵臓機能の低下
・薬剤による作用(血圧降下剤や副腎皮質ホルモン剤など)
・遺伝(体質的にインスリンの分泌が少ない)
・妊娠

糖尿病の合併症
・糖尿病性網膜症
目の網膜にある血管がもろくなって、出血を起こします。物を見るのに重要な黄斑部(網膜の中心部)に出血が起こると、視力障害が起こり、失明に至る場合もあります。

・糖尿病性神経障害
末梢神経、特に足の神経が障害されます。初めは足がしびれたり、ピリピリ痛む程度ですが、病気が進むにつれて知覚が麻痺し、足に傷や靴擦れがあっても、痛みを感じなくなります。そのため、足の小さな傷から潰瘍を起こしたり、細菌が感染して壊疽を起こすおそれがあります。
また、糖尿病は動脈硬化を促進しますが、特に下肢の血管の動脈硬化が進行して血液が十分に供給されなくなると、痛みのために歩行ができなくなったり(間欠性跛行)、足の潰瘍や壊疽を悪化させたりすることもあります。

・糖尿病性腎症
腎臓の血管が障害されるため、血液を濾過して、体に不要な物質を排泄する働きが低下します。自覚症状はほとんどありませんが、進行すると「腎不全」を起こし、透析による治療が必要です。

・その他の合併症
糖尿病は、前述のように「動脈硬化」を促進します。心臓に栄養を供給する冠動脈の動脈硬化が進むと、「狭心症」や「心筋梗塞」を起こすおそれがあります。しかも、糖尿病の合併症として起こる心筋梗塞は、胸の痛みなどの症状が出ないことが多いため、知らないうちに心筋梗塞を起こしていることもあります。

これらのように、糖尿病は治療もせずに放置していると、合併症を起こす危険性が非常に高まっていきます。そうならないためにも、早いうちから病院や薬局で、きちんとした血糖コントロールに努めてほしいと思います。

西洋医学では
 糖尿病の治療は、基本的に「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の3つとなります。
まだ早いうちなら食事療法と運動療法で糖尿病はコントロールできます。しかし、進行すると経口内服薬やインシュリン注射などによる薬物療法が必要となってきます。
薬物療法が必要になる糖尿病のタイプとしては、まず「1型糖尿病」の人があげられます。1型糖尿病だと、体内でインスリンそのものを作れないので、インスリン注射が必要になってきます。
 また、それ以外の型の糖尿病でも、食事療法や運動療法を続けても効果が現れない場合には薬物療法が選択されます。ただし、これらの薬物療法は単体で行うものではなく食事療法、運動療法と一緒に行っていきます。
薬物療法
αーグルコシダーゼ阻害薬:製品名(グルコバイ、ベイスン)
食後の血糖値の上昇を抑える働きがあります。食前に飲んでおくと食物の分解・吸収の速度を遅らせてくれますが、吸収速度を抑えるだけで結局は食べた物は全部吸収されていきます。

スルフォニル尿素薬:製品名(ダイアグリコ、オイグルコン、アマリール)
膵臓を刺激してインスリンの分泌を高めることを意図とした薬です。そのため膵臓がインスリンを生成する力がまだ残っている場合にしか効果が期待できません。また低血糖の副作用もあり、空腹感が強くなる場合があります。

インスリン抵抗性改善薬:製品名(アクトス)
膵臓に問題なくインスリンもちゃんと分泌されているにも関わらず、インスリンの働きが悪い場合(インスリン抵抗性)に使用されます。ただし、この薬は副作用が強く、あまり使用されることはありません。また副作用として、肝臓に悪影響がでるとの報告があります。
漢方では?
 糖尿病は歴代の医書に「消渇(しょうかち)」とあるものに相当します。古人は本病を、口渇多飲し、食すれど飢えて益々消耗羸痩(痩せ衰える)することより消渇と名付けています。
 過食やアルコールの摂りすぎのために脾胃を損傷し内熱が発生したり、或いはストレスにより肝気が鬱結し、結果的に陰が傷つけられたり、或いは加齢に伴い次第に陰虚燥熱の状態になり消渇に至ると考えられます。また体質的に腎虚の傾向がある者、あるいは房事過度(性交過多)により腎精を消耗した者は腎陰が不足するので消渇を発生しやすいようです。
 このように糖尿病の誘因は様々ですが、最終的には皆、陰虚燥熱です。陰虚は内熱を生じます。内熱はまた津液(体内の水)を損傷して益々陰虚を生じることにより、陰虚と内熱とが互いに原因となり結果となって悪循環に陥り、病状を進展させていきます。病が進めば陰の損傷は陽に及んで腎陽を始め諸臓の陽気も虚し、末期には陰陽両虚証に陥ります。

1.食積(美食、過食)肥満型
 過食、美食、運動不足は脾胃の運化を失調させ、食積、肥満、湿熱を生じます。湿熱は持続すると燥熱となります。肥満はインスリン抵抗性を増大させ血糖値を上昇させます。
代表処方:防風通聖散・・・発汗、瀉下、利尿に加え清熱の働きを有し、主に中年の脂肪肥りの人の食積、体毒を汗、便、尿にして排泄させます。肥満、便秘、のぼせを目標に使います。 

2 肝気鬱結型
 精神的なストレスが持続すると肝は疏泄作用を失い、肝気鬱結を生じます。肝気鬱結が持続すると鬱積した肝気は熱を生じ、心肺に衝き上げ、あるいは脾胃に影響を与え、血熱や胃熱を生じます。
 代表的処方:大柴胡湯・・・がっしりした筋肉質の肥満者で、著明な胸脇苦満と心
下部の膨満感と抵抗、便秘傾向を目標に用います。イライラ、怒り易い、のぼせ、口が
苦い、或いは目の充血などがあり、食欲が異常に亢進し、その結果肥満を生じることも
あります。

3 陰虚燥熱型
 糖尿病では誘因は何であれ、最後には総て古人が消渇と呼んだ陰虚燥熱の証を呈して
きます。水飲代謝の要所である脾、肺、腎の何処が失調するかによって、上消(肺)
中消(脾胃)、下消(腎)に分けられます。

1)上消は肺の機能不全に基因します。肺は上焦に位置し、水分の通導を整え、食餌の効能を発揮させます。肺が熱によって傷つけられておこるのが上消の糖尿病です。口中や舌が乾き、煩渇して水を多く飲み、頻尿で量が多く、遺尿が認められることもあり、また舌の先や周辺部に赤みがあって上には薄黄色の苔があるなどの特徴があります。
代表的処方:白虎加人参湯・・・肺の燥熱に対する基本処方です。陽気と津液を損傷した病態を改善します。

2)中消は脾胃の不調に基因します。脾と胃はともに中焦に位置し、食餌を収め、消
化吸収した気を全身に送ります。中消証の特徴は常に飢餓感があり多食することで、大便は秘結し、多尿頻尿があります。長引くと気の全身への輸送が滞って食餌で摂取した必要な部分も不必要な部分もすべて漏れ出るようになり、尿は甘く浮遊物が混じります。舌は赤みがあり黄色い苔がつき、乾燥気味です。さらに重症になると倦怠感が強くなりやせ衰えます。
代表的処方:調胃承気湯・・・脾胃の津液が裏熱のために枯燥し、腸内に便が停滞しているのを清熱瀉下します。
3)下消は腎の不調に基因します。腎は下焦に位置し、精を貯蔵し水分代謝を担います。腎に基因する下消の特徴は、飲んだ分だけ小便に出ると言われるほどの頻尿多尿で、進行すると尿は混濁し、身体は痩せ、顔色は黒くくすみ、舌は赤くて乾燥気味で苔はないか白くて滑らかなものがつきます。
代表的処方:六味地黄丸・・・腎陰を滋補し陰液を増やし水気を盛んにして陽気や熱邪を抑制する代表的処方です。

4 陰陽両虚型
 体の生理に於ける陰と陽の関係は、陰は基礎物質であり、陽は機能活動です。腎陽と
腎陰とは相互に依存し合う関係にあるので、陰虚が長びけば必ず陽虚を生じます。陰陽
両虚すると、下半身の冷えや脱力、倦怠、尿利異常、性欲減退、不妊、耳鳴り、眼のか
すみ、早老、脱毛、白髪などの症状がでやすくなります。
代表的処方:八味地黄丸・・・腎の陰陽両虚を改善します。この処方は腎陰を滋養する六味丸に、腎陽を温補する桂皮と附子を加えた内容になっています。

 漢方治療に於いても適切な食養生と運動療法は基礎治療として必ず守らなくてはい
けません。漢方治療だけで血糖値が低下する例は必ずしも多くありませんが、適切な漢
方治療を行えば、消渇を始めとする自覚症状の改善、病状の進展阻止及び合併症の予防
には効果的だと思います。
症例
症例
65歳、女性、身長152㎝、体重60㎏。
これまでの経過と症状
健康診断で糖尿病と診断され、食養生と経口糖尿病薬の内服薬で血糖値130前後を維持していた。ところが、過労と心労がかさなり検査で血糖値250、腎臓も悪く、尿蛋白が1プラスと言われたとのこと。 病院で経口糖尿病薬を増やして治療したにもかかわらず、次の検査では、さらに悪化して、空腹時血糖値が270、尿蛋白は4プラスとなった。
胃腸は丈夫で食欲旺盛、顔色体格ともに良好。冷えはない。やや高血圧ぎみで、便秘があり、疲れやすい、舌にやや乾燥した白苔がある、という症状でした。
 親や兄弟も糖尿病があり、糖尿病の三大合併症の一つである、糖尿病性腎症で人工透析にならないかと心配だといわれていました。
生まれつき胃腸が強く、良く食べ、過剰栄養気味の人が老化及び心労により身体が弱り、家系の遺伝因子である糖尿病の発生につながったようです。

この症例のような方は、簡単に言いますと、健康的にやせて、疲れがとれ、身体が軽く動きやすくなれば、糖尿病も腎臓病も改善すると考えました。そのためには、過労心労で疲れた身体に元気を付け、飲食過多でオーバーヒートして弱った膵臓や腎臓の熱を冷ますことです。処方としては、腎陰虚を改善する処方を中心に服用してもらい、食事にも気をつけてもらいました。

服用後、23日経過した時の検査で、空腹時血糖値110、尿蛋白マイナスとなり、他の検査数値も全て正常範囲内で、体調も非常に良いとの事でした。食養生も頑張られたようで、体重も5㎏減り、55㎏になってこられました。漢方薬がこんなに効くとは思わなかったと非常に喜んで帰られました。

三か月間は同じ漢方薬を服用してもらい、検査でも全ての数値が異常なしで、病院の先生もびっくりされているとのことでした。

その後、漢方薬は廃薬し、体に元気をつける漢方製剤などを服用されて、70歳になる現在も糖尿病が悪化することなく元気にされておられます。

養生と予防
・食養生
 私達が子供のころ、正月におせち料理を食べるのを楽しみにしていたものです。世界中の食べ物が豊富にあふれている現代日本において、食べようと思えば、毎日でもご馳走が食べられ、正月料理も楽しみではなくなってきました。本当に現代は過剰栄養の世の中です。
 糖尿病はその過剰栄養の食毒にあたった代表的な病気です。粗食、空腹によって身体が守られるということに気づきたいものです。
 この症例の方も食養生を頑張り一ヶ月で5㎏やせられたのが薬の効き目を倍増させたのだと思います。
・運動養生
 今から50年前の昭和30年代の車の登録台数と現在の車の登録台数を比較しますと約40倍になっているそうですが、糖尿病の患者数もまた昭和30年代の40倍だそうです。過剰栄養だけではなく、車社会になった現代の運動不足も、糖尿病のおおきな原因だということを証明するおもしろいデータですね。
 自分の身体と相談しながら、翌日に疲労を残さない程度の運動を続けていきたいですね。
・生活養生
 身体が弱ると持病があばれます。過労にならないよう、無理してはだめだよと病気がおしえてくれているのです。身体の呼びかけに素直になって、休めてあげましょう。
疲労をとる一番の薬は睡眠です。十分に睡眠をとりましょう。
・精神養生
 笑うと身体も笑います。しかめると身体もしかめます。人生に苦しみや悲しみなどの心配事はつきものですが、自分の大切な命を守るため、なるべく顔をしかめるような考え事は切って捨てて、気の毒にあたらないようにしましょう。
 以上の養生を実行するに当たって一番大切なことは、喜んで行うということです。一生懸命食事を減らし運動を頑張っても顔をしかめてはストレスがふえるばかりです。養生は自分の気持ちと相談しながら喜んで行うのがポイントです。