五味について

酸味について
酸は収~肺は収を欲す、急ぎ酸を食して、もってこれを収す  (素問 蔵気法時論篇第二十二)
肝気(酸味)は収斂する⇔肝は血を蔵して発散する
(収斂して血を多く蔵し、その血の陽気によって発散するのが肝の働きである。)
酸味に収斂作用があることは明らかである。したがって肝気にも収斂作用があることになる。
(収斂するとは物を集める力。肝気が働いて、血というものを集めて肝に貯蔵する。)
肝は、血を貯蔵している臓である。そうして春によく働く。春は万物が芽を出す時だ。人体もこれに応じて発生するのだが、その発生の役目をするのが肝である。
その発生作用は血によって行われる。だから肝は血を多く集めておく必要があるが、肝にはその力はない。そこで肝の収斂の気が働いて肝に血を集める。
したがって、肝の気が不足して肝血が少なくなったときに酸味が必要になる。

  1. ①酸味の脾胃に対する作用

陰の五官を傷ることも五味にあり、味、酸に過ぎれば、肝気以って津あり、脾気即ち絶す
(素問 生気通論篇第三)
酸味によって肝気が旺盛になると脾気が働かなくなる。脾は津液を巡らせて胃を働かせている。ところが、肝気が多くなると収斂の気が多くなり、脾の働きが縮まって胃も充分に働けなくなる。

胃の弱い者は、酢の物を多食すると食欲が落ちる。これは、胃の陽気を収斂して抑えるからである。
逆に、食欲旺盛な人、お酒の好きな人は、酢の物が適している。
(食欲旺盛な人は胃の気が多く、お酒を飲むと胃に熱を持つ。だから、酢の物で胃の気を収斂すれば、食欲が抑えられるし、酒の熱気が抑えられて頭に上りにくい。)

  1. ②酸味の筋に対する作用

酸は筋を傷る(素問、陰陽応象大論篇第五)
多く酸を食せば、肉ちすうして唇かかぐ(素問、五蔵生成論篇第十)
(ちすう=筋肉が萎縮する  唇かかぐ=唇が巻き上がる)
酸は肝気を補い血を集める。血が多くなれば筋は潤うはず。ところが、酸味が多すぎると収斂しすぎるために筋が萎縮する。唇が巻き上がるのもそのためだ。
酢を飲むと身体が柔らかくなるというが、摂りすぎると逆になる。運動選手には、酸味を摂りすぎないように指導する。
肉体労働や運動で筋肉に熱が多くなりすぎた場合には、酸味を少し摂るとよい。

  1. ③酸味の膀胱に対する作用

酸は筋に走る、多くこれを食すれば、人をして癃せしむ~酸、胃に入れば、その気渋り以て収す、上の両焦、出入りする能わず、出でざればすなわち胃中に留まる、胃中温和なるときは則ち下りて膀胱に注ぐ、膀胱の胞は薄く以てやわらか、酸を得れば縮綣し、約して通せず、水道行かず、故に癃となる                              (霊枢 五味論篇第六十三)
癃(小便がでなくなる病気)は、膀胱が縮まるからだとある。
酸味が胃にはいると、上焦と中焦の気が通じにくくなる。つまり、陽気の生産と発散が悪くなるのだ。しかし、胃が丈夫であれば、酸味は膀胱に下る。膀胱の皮は薄いので収斂の気を受けやすい。そのために膀胱は萎縮してしまい、小便が通じにくくなる。
(適度な酸味は小便を通じると言えるが、尿道炎・膀胱炎・腎臓病・腎臓結石などは、酸味のものを控えるとよい)

  1. ④酸味の心に対する作用

心は緩を苦しむ、急ぎ酸を食してこれを収す  (素問 蔵気法時論篇第二十二)
心が緩になるのは、熱が多くなりすぎるからである。これを収斂して心熱を落ち着かせるのが、酸味である。高血圧に酸味がいいのはそのためである。逆に言えば、低血圧で冷えやすい人には、酸味をとりすぎないようにさせるべきでしょう。

  1. ⑤酸味の肺に対する作用

肺は収を欲す、急ぎ酸を食して以てこれを収す、酸を用いてこれを補い、辛にてこれを寫す
(素問 蔵気法時論篇第二十二)
酸味は収斂するが、肺気は発散する。肺が収斂できないで咳が出るような時には、酸味の物がよい。逆に肺が収縮している時には酸味が悪いということになる。

  1. ⑥酸味の腎に対する作用

腎は水の臓である。水によって適度な堅さを保っている。ところが、何らかの原因で水(津液)が不足すると堅くなれず、腎気は上逆を起こす。この時に酸味を用いると、腎気を収斂して腎の津液が多くなるように助ける。

  1. ⑦酸味の食べ物

口に入れて酸味を感じる酢・レモン・梅干はもちろん「青い色の物・胡麻やニラなど」

(酸温)米酢・リンゴ・スモモ・ローヤルゼリー・梅肉
(酸平)梅・かりん・ヨーグルト
(酸寒)ゆず・ダイダイ・レモン

 

苦味について
苦は堅~苦は泄~苦は燥~腎は堅を欲す、急ぎ苦を食して以てこれを堅くす
(素問蔵気法時論篇第二十二)
心気(苦味)は堅める⇔心は活動的で陽気が多い
苦味に泄らす作用があるというが、泄れれば津液が不足して乾燥するのは当然で、つまるところ全て
堅める作用からきている。堅めるとは、引き締める・抑制する・鎮静することである。苦味は心の支配する血脈に作用し、血脈を引き締める→細くなるので血が早く流れる→流れが速くなると水が少なくなって乾燥する。
心は、もともと陽気が多い臓だから、熱が多くなると苦しくなる。そのために常に心気が働いて、心に熱が多くなりすぎないように制御している。この作用を心熱を抑えるという意味で堅めるという。
苦味が補う心気は陰であり、熱の多い心は陽臓である。したがって苦味には陰気を補って熱をとる作用があると考えてよい。これは心だけではなく、その他の体の熱を持ちやすい部位にも作用する。
逆にいうと、冷えやすい人(胃が冷えて少食な人)・下痢しやすい人・風邪にかかりやすい人は苦味のものを多食してはいけない。

  1. ①苦味の血脈に対する作用
味、苦に過ぎれば、脾気うるおわず、胃気すなわち厚(あつし) (素問 生気通天論篇第三)
血脈は心の支配に属する。したがって苦味のものは、血脈に作用して、栄気(衛気と比較すると陰気)を補って血流を盛んにする。そうすると、脾の余分な津液が無くなり脾気が潤わず脾が乾燥すれば、その表である胃には熱が多くなる。(これを胃気厚という)

多く苦を食すれば皮かれて毛抜ける    (素問 五蔵生成論篇第十)
苦味は栄気を補うから、相対的に衛気は不足する。衛気が不足すると、皮毛の働きが悪くなり、毛が抜ける。(相克関係)

苦は気を傷る   (素問 陰陽応大論篇第五)
この気は衛気のことだ。つまり、苦味のものは衛気(陽気)を少なくする。衛気が少なくなれば冷えやすくなる。それで冷え性の人には苦味はよくないというのだ。

  1. ②苦味の脾胃に対する作用

脾は湿を苦しむ、急ぎ苦を食して以てこれを燥す    (素問 蔵気法時論篇第二十二)
脾は腎から津液を取り上げている。その津液によって胃腸を働かせている。腎が冷えて水が多くなりすぎると、脾の水も多くなりすぎて胃腸にも水が多くなりすぎてはたらけなくなる。この時に苦味薬を用いて血脈を引き締めれば、血流が盛んになって湿がさばける。
胃は冷えやすいところでもあるが、脾の陰気が虚すと逆に熱を持つ。その時に、苦味のものを食べると脾の陰気が補われて胃腸の熱がとれる。食欲旺盛で、口がよく渇き、便秘がちな人は苦味のものを食べるとよいが、胃の冷えやすい人は苦味のものを食べると、食欲がさらに下がり、ひどい時は心下が痞えて吐き気がする。

  1. ③苦味の肺に対する作用

肺は気の上逆を苦しむ。急ぎ苦を食して、以てこれをもらす  (素問 蔵気法時論篇第二十二)
上逆(のぼせ)を起こすのは、熱が多くなって収斂できないからである。このような時に、苦味の物がよい。

  1. ④苦味の肝に対する作用

肝は血を蔵する所である。もし血に熱が加われば血流が悪くなり停滞する。これが瘀血である。この時に苦味で陰気を補えば、津液が多くなって血熱がとれ、血流が盛んになって瘀血が取れる。

  1. ⑤苦味の食べ物

青い野菜(ピーマンなど)青汁は苦味だと言える。これらは血圧にもよいし、胃の熱をとるからだ。霊枢では、麦、羊肉、杏、ラッキョが苦味の食べ物だとあるが、漢方薬の説では、杏とラッキョは、心の陽気を補うことになっている。
(苦温)ヨモギ フキ タラの芽
(苦平)うど 春菊 銀杏 菊花 ビワ
(苦寒)たけのこ ゴボウ ホウレン草 苦瓜

 

甘味について
脾は緩を欲す、急ぎ甘を食して以てこれを緩くす   (素問 蔵気法時論篇第二十二)
脾気(甘味)は緩める⇔脾は血や津液を多くして緩める
(脾は胃に津液を送って働かせている。それによって、胃は気血を作り経脈を通じて各臓腑に送っている)
甘味は脾の気を補う。脾気が盛んになれば腎より津液を多くとりあげられる。津液が多くなれば、その力によって胃腸を働かせて陰陽の気血や津液の製造が活発になる。津液・気血が多くなれば栄衛の気のめぐりも盛んになり、皮毛・血脈・肌肉・筋・骨・臓・腑すべての形あるものが潤される。それで甘味には緩める作用があるということになる。

  1. ①甘味の肌肉に対する作用

甘は肉を傷る         (素問 陰陽応象大論篇第五)
甘いものをとりすぎると肥る、肥りすぎて締まりのなくなった状態を肉を傷るといった。

  1. ②甘味の肺に対する作用

肺の津液が不足して乾燥した場合には、甘味でもって津液を多くしてやる必要がある。肺が乾燥すると咽頭がイガイガして咳がでるが、このような時に飴をなめさせると止まることが多い。(甘味で肺を潤しているから)

  1. ③甘味の腎に対する作用

甘を多食すれば、即ち骨痛みて髪落ちる    (素問 五蔵生成論篇第十)
腎は堅いのがよい臓である。しかし甘いものには緩める作用があるので腎が堅くならず、肥ってくる。これは、腎の津液が多くなりすぎたといってよい。甘みを摂りすぎると骨が弱くなり髪の毛が抜けるとあったが、これは腎が弱くなるからだ。(腎虚の人には甘味は百害あって一利なし。)

  1. ④甘味の肝に対する作用

肝は血を蔵しているが、この血は脾胃で製造させる。つまり肝は常に脾から血をとりあげているのである。もし肝気不足によって血が収斂されないだけでなく血そのものが不足している場合には、甘味で脾を補って肝の血を多くしてやる必要がある。つまり甘味のものは、血を多くする作用もあるのだ。

  1. ⑤甘味の心に対する作用

味、甘に過ぎれば、心気喘満、色黒く、腎気たいらかならず  (素問 生気通天論篇第三)
心は熱の多いところだから、常に陰気を必要としている。堅まるのはいいが、緩まるのは嫌う傾向にある。それなのに、甘味のものを摂りすぎると心気喘満という状態になる。あるいは、ばん心(胸が苦しくなる)のだ。心臓が緩むのであろう。そうして同時に腎の堅まる作用も弱くなる。

  1. ⑥甘味の脾胃に対する作用

甘味のものは適度に脾を補うが、摂りすぎると脾も胃も緩んでしまう。津液が多くなりすぎると逆に食欲がなくなる。ただし、運動をして肉を使いすぎた時には適度に甘味の物を食べるとよい。

  1. ⑦甘味の食べ物

霊枢には、牛肉・ナツメ・葵などが甘味の物とある。これに穀物全般を含めて考えてよい。人工甘味料は論外、自然の食物に含まれている甘味が脾胃によい。
(甘温)うどん うなぎ マグロ 牡蠣 海老 かぼちゃ やまいも 椎茸 羊肉 牛肉
(甘平)ゴマ 大豆 イチゴ イチヂク 鶏卵 ブドウ 蜂蜜 レンコン トウモロコシ
(甘寒)砂糖 ナス きゅうり キャベツ トマト レタス 白菜 柿 モモ みかん 豆腐

 

辛味について
肝は散を欲す、急ぎ辛を食して、以てこれを散ず
肺は収を欲す、急ぎ酸を食してこれを収す、酸を用いてこれを補い、辛を用いてこれを寫す
(素問 蔵気法時論篇第二十二)
肺気(辛味)は発散する⇔肺は皮毛によって身体を包み収斂する
酸味は肺を補い、辛味は肺気を補う。そうして、肝血は発散を好むから辛味を欲し、肺は収斂を欲するから酸味を好む。(酸味で肝気を補うと肺は収斂する。)

  1. ①辛味の肺と気に対する作用

味、辛に過ぎれば筋脈沮弛して、精神すなわち央す   (素問 生気通天論篇第三)
辛味のものは、陽気を巡らし、温めて発散する作用がある。摂りすぎると温まりすぎて筋や脈が緩む。そうして、興奮状態になる。
多く辛を食せば、筋急にして爪枯れる     (素問 五蔵生成論篇第十)
発散しすぎると、今度は潤いがなくなり、筋が引きつり爪も枯れてしまう。
辛味は肺気を補って陽気を循環させ身体を温める作用がある。しかし、補いすぎると(辛味をとりすぎると)陽気を補いすぎて発散してしまい、そのために冷える。ただしこれも季節によって違う。暑い時はしっかりと辛いものを食べて汗を出し、大いに発散して痩せるのがよい。

  1. ②辛味の心に対する作用

辛は気に走る、多く食すれば人をして洞心せしむ~辛、胃に入ればその気上焦に走る、上焦は気を受けて諸陽を営むものなり、姜、韭の気、これを薫じ、栄衛の気、時ならずこれを受け、久しく心下に留まる、故に洞心す
洞心とは、胸苦しくなることである。心は熱の多いところである。それなのに辛味を摂りすぎると胸に余分な陽気が多くなり、心を熱してしまうのである。逆に心の陽気が不足しているときは辛味で温めることも必要である。

  1. ③辛味の腎に対する作用

腎には、陰気(精)があり、また津液がある。共に陰である。しかし腎にも陽気(命門の火)がある。この陽気がないと津液が停滞して冷えやすくなる。逆に津液そのものが不足した時には、陽気が津液を運んでくる。この陽気を補うのが辛味である。

  1. ④辛味の脾胃に対する作用

脾は陽気の必要のないところである。しかし、胃には陽気が必要である。胃は熱をもちやすいが、冷えやすいところでもある。そのために辛味を必要とすることが多い。

  1. ⑤辛味の食べ物

辛味のものは、陽気を多くして循環し、発散するから、胃の冷えやすい人・風邪になりやすい人は少し食べるとよい。(摂りすぎると、逆に冷える。)
霊枢では、鶏肉、桃、葱などが辛味のものだと記してある。これ以外に酒・トウガラシ・ワサビ・ニンニク・カレーなどはすべて辛味だと考えてよい。
(辛温)紫蘇 にら 生姜 大根 山椒 らっきょ 落花生
(辛平)さといも ネギ
(辛寒)ずいき

 

鹹味について
腎は堅を欲す、急ぎ苦を食して、もってこれを堅くす、苦をもってこれを補い、鹹を用いてこれを寫す                            (素問 蔵気法時論篇第二十二)

腎気(鹹味)は濡す⇔腎は水(津液)によって堅まる性質がある
鹹味の物には濡、つまり潤す作用がある。
腎は津液の多い臓器である。即ち適度な水を得て堅まっているのがよい。しかし、津液が多くなりすぎると冷える。そこで、腎気が働いて腎の津液が多くなり過ぎないようにし、なおかつ腎から津液をださせて、ほかの必要な部位(脾など)に送る。
(みずみずしい大根に塩をかけると、水がでて柔らかくなるが、鹹味にはそのような働きがある。)

  1. ①鹹味の心と血に対する作用

心は濡を欲す、急ぎ鹹を食して、以てこれを濡す(うるおす)、鹹を用いてこれを補い、甘を用いてこれを寫す                        (素問 蔵気法時論篇第二十二)
濡は潤すと同じ意味である。濡すというと水が多くなるというイメージがあるが、逆で水の多いものに対してこれを取り上げると考えていただきたい。水の多いのは腎だが、血の中にも水がある。この水を除いて引き締めるために鹹味を用いる。これが行き過ぎると血の中の水がなくなり、粘ってくる。あるいは、血に熱が多くなり、口も渇き血圧も高くなりやすい。そうすると、血圧の低い人には鹹味がよいということになる。

  1. ②鹹味の肝に対する作用  

肝は血を蔵している。鹹味の物をとりすぎるのは血の循環を悪くするが、適度な鹹味は逆に血流をよくするといわれる。

  1. ③鹹味の脾胃に対する作用

  鹹味には潤す作用がある。潤すとは水分を多くするのではなくその部分の水を抜く、またはそこの部分の水を抜いて必要な所に回すという意味である。
脾は津液を必要としているが、多くなりすぎると困る。特に胃は水が停滞すると働かなくなる。これを鹹味によって潤し和らげるのだ。
(鹹味が多くなりすぎると、胃は乾く。あるいは肌肉も乾いて皮膚が乾燥するようになる。)
また腎の津液は鹹味によって適当な量に加減されている。鹹味によって絞り出された津液は脾に送られる。脾は腎から来た津液を受けて胃に命令を出す。命令を受けた胃はよく働いて津液を造る。その津液がまた腎に送られるという関係になっている。したがって適度な鹹味は腎をしっかりさせるだけでなく、脾胃に対しても働いているのである。

  1. ④鹹味の食べ物

霊枢では、大豆・豚肉・栗などが鹹味だとある。大豆・栗その他芽のでる豆類・種子類も腎を堅める作用がある。とすれば、腎に水が多くなりすぎている時に食べるものだと思われる。
(鹹温)めざし 干物 鰯 鯖 納豆 味噌 大麦 栗
(鹹平)しじみ ひじき 醤油 わかめ 
(鹹寒)蟹 昆布 はまぐり なまこ あさり もずく